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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)260号 決定

抗告人 甲野咲子

右法定代理人親権者母 甲野花子

右代理人弁護士 大崎康博

同 三戸岡耕二

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告代理人は、原審判を取り消し、相当の裁判を求め、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

二、抗告人が抗告の理由として主張するところは、民法第七九一条の保護法益は、子の福祉であって、これは親子同一の氏でありたいという感情であり、子の日常生活における現実的な生活上の利益であって、従って父の妻らの抱く感情を考慮すべきであるとしても、等二義的意味しかない、というにあるものと解せられる。

当裁判所も、原審判の説示するとおり、抗告人の氏の変更を希望する理由と抗告人の父の妻らの感情とを比較考慮して抗告人の申立の許否を決すべきものであると判断するものであって、抗告人の主張する如く、特別の不許可事由がない限り、原則として子の氏の変更を許可すべきものとは考えない。ところで、本件記録によれば、抗告人は、父母と共同に生活し、これまで日常生活において母とともに事実上の呼称として父の氏である「乙山」姓を使用してきたところ、本年四月より小学校へ通学するようになったため右呼称を使用することができず、抗告人一人法律上の氏である母の姓を称さなければならなくなったので、氏を変更したいというのであって、抗告人の希望(その年令よりして父母の意思、希望であると推認するに難くない。)は一応理由があるものとはみられるものの、他方抗告人の父の妻および三人の嫡出子は、右氏の変更に反対しており、その反対するのは無理からぬものがあると認められ、抗告人の変更の理由は、これらの反対をおしてまでその氏の変更を許さなければならないほど重要なものとは考えられない。

三、従って抗告人の主張は理由がなく、原審判には他に取り消すべき違法の点はない。

よって本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 小林定人 野田愛子)

〈以下省略〉

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